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ため息に溺れる 「ラスト10ページ見えていた世界が一変する!!」読書感想

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「ラスト10ページ 見えていた世界が一変する」という煽り文句に誘われて本屋で衝動買いした小説、「ため息に溺れる」 石川智健さん著の小説の感想です。

こういう帯には毎回期待を煽られて、裏切られることが多い昨今、もう「あおりに騙されるかどうか」も楽しみに読むようになりました。

イケメンで人気者の医者、権力のある大病院の跡継ぎとして養子になった指月の死。警察は自殺と判断するが…

何の問題も無く成功者に見えた男、指月の死。
その自殺の仕方は普通ではなかったが、警察は自殺と判断。
ただその後、妻の舞子より「もう一度事件を捜査してほしい」と頼まれ、警察にまで権力が及ぶ医者一家、蔵元一家を主人公である女刑事、薫が単独で捜査することである。
警察からは「早めに舞子に自殺であると納得してもらえ」とやる気の無いまま捜査に当たるが…

というような始まりの話。

自殺の仕方が、腹を刺し、震える手で遺書を書いてそのあと首を切って絶命していたり、
指月が蔵元家の実後ではなく養子であったり、実後であった真一は過去自殺していたり…という「なんか色々ありそうだな」というミステリファンがわくわくするような入りでした。

※以下ネタバレあり

結論から言うと、
「煽りのような話しではなかった」です。

「ラストで世界が一変する」というあおりを見ると、「イニシエーション・ラブ」や「葉桜の季節に君を思うということ」などを思い浮かべますが、それとはちょっと違う。
私が読んだ中で敢えて上げるとするなら「ラヴァー・ソウル」でしょうか。ただ、正直言うとそれほどの衝撃も無かった。

たくさんの「面白そうな欠片」がある中で

・女刑事である主人公・薫は子供が産めないことで前の夫と別れ、そのトラウマを今も抱えている。
・指月は両親からの虐待を受けており、児童保護施設で育っている。
・指月は実はBLGTの「ゲイ」であり、女装していたところを見られており、葛藤を抱えていた。
・蔵元家の実の子どもである真一は、連続幼女暴行事件の被疑者であった。のちに自殺。
・蔵元家の当主、庸一郎は、選挙でも「他人を落とす」力を持っている。
・庸一郎の息子、文彦は小森という女性と不倫関係にあった。その上文彦には子どもを作る能力がなかった?
・別の殺人事件の依頼
・蔵元の病院の伊藤という男は指月と仲が良く、薫も話を聞いてるうちに惹かれていたが…

このような「色々な面白そうなエピソード」がどうやって繋がっていくのか?と用心深く読んだ。
で、この小説を読んだ感想が「うん…なるほど…」みたいなものに落ち着いてしまったんですが、その理由がこの「面白そうなエピソード」が思ったより絡み合わなかったこと。
そして「誰の物語か?」がよくわからなかったことにありました。

例えば、最後まで読んでも「薫の不妊エピソードはなんだったのだろう?」と思う。
小森の話が出たときに「ああ、ここのある種の伏線として出していたのか!」と思ったんだけど、
結局曖昧になって終わったし、最後の指月の独白を読んで余計に混乱しました(再読したら理解できるかな…?)

指月の産まれ育ちからの成功、からの自分のBLGTという悩み。「誰も傷つけたくない」という気持ち。
このあたりのエピソードも共感または狂気になるところ(ラスト10ページと強調したからにはこれがメインだった?)があまりに内容が薄くて、(10ページだし…)そもそもその「ラスト10ページ」までに「指月ってすごくいい人!」だったり「ああ、すごく悩んでいたんだな」と感情移入するまえにラストを迎えてしまったために、ラスト10ページの独白が「ああ、そうなんだ…ふぅん」って気持ちで終わってしまった。

この二人のエピソードは絶対に共感できる人が多いしいくらでも掘り下げられるのに、こんなにさらっと終わってしまった!!!というのが素人目に見てすごくもったいなく思った。

その代わりに書かれたたくさんのエピソード、「選挙での力」や「伊藤という人物」、「真一の過去の罪と自殺」、「文彦の不倫」…ひとつひとつに入り込めなかったのはなぜだろう…

選挙の話は、ミスリードさせるためだけのもの?それとも「蔵元家はここまでの権力がある」というそれだけのエピソードだった?
真一の過去の話はなんだった?独白から「そう仕向けた」かと思いきやそこまでも読めない。
どうせ独白で読ませるのなら、伊藤との関係性はもっと濃く書いて欲しかったな…

厳しい書き方になるけど、ちょっと浅いな、と思ったのは
舞子の行動に対して「犯人を見つけたらどうするつもり…?」と、舞子の殺意を感じているような言葉をちりばめておいた上で、犯人と舞子を一緒に置いて舞子の犯行をとめられなかった点。
これもなんというか、「別に犯行させなくてもよかったのでは?」と思ってしまう…

そう、多分全てのエピソードについて「必然性を感じない」。
物語だから寧ろ「いやいやストーリーありきで不自然だ!」と思う話が多い中、この小説は「なぜここまでふわっとしたエピソードが多いのだろう」と不思議に思う。
新しい、というのだろうか…不思議な感覚でした。

煽り文句について

煽りについては割と同じように「言いすぎ」という感想を目にした。
私もそう思う。少なくともこの話は、「犯人を捜す物語」ではないし、「一変するラストを予想するもの」でもない。というかできない。
煽りのせいで「ラスト10ページ」を目指して読んでしまったが、その読み方が本当に正しかったのかよくわからない。
「指月の生き様と心の闇」にフォーカスしたのだとしたら、「世界が一変」という表現が正しいと思えない。

まあ、正直全て読んだ上で「誰の話だったんだろう」と思わざるを得なかった。
指月にしても、舞子にしても、庸一郎も真犯人も主人公も、ある意味「だれも主人公には思えない小説」だった。
唯一キャラクターとして立ってたのは赤川だったと思う。
この作品で言いたかったことはなんだったんだろう…

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