しばらく読書から遠ざかっていたのですが、小説読みたいな、と思って手にしたのがこの本です。
本屋で見かけ、素通りしそうになって、「中田永一」…乙一!!!と繋がって購入。
別名義がたくさんあるので見逃してしまう…
乙一さんは、Wikipediaの作品一覧で、「夏と花火と私の死体」から「ZOO」までおそらく全部読んでます。
それくらい一時期はまった作家さんです。
今回は別名義でさらに合作、ということで、どんな作品なのかわくわくしながら読みました。
もうひとかた、中村 航さんは読んだことがなかったのですが、
「100回泣くこと」は有名な作品だと認識してます。表紙から記憶にあります。
この作品は、中村航さんが、彼の母校、芝浦工業大学と開発した「ものがたりソフト」を使って作品をプロットを作り、
それをもとにお二人が交互に執筆されたという、とても特殊な制作をされて完成された物語です。
ただ、私はその情報を知らずに読み「結局共作ってどういうこと?」と調べて知りました。
それくらい、どちらがどこを書いた、とか、文体がちょっと変わったな、というようなことは全くわかりませんでした。
とてもフラットに読めます。
そして乙一さんの作品しか読んだことがなく、さらにファンの私から見るとこの作品は「すごく乙一さんらしいな」と思う作品でした。
というより、中田永一名義で書かれた「くちびるに歌を」に似ています!笑
あれをもっとコミカルにした感じです。小説読んで越えだして笑ったのは初めてかもしれない…
小説って、どう書くのだろう
この物語は、「ちょっと冴えない、不幸体質の男子高校生」が、「文芸部に入って!!!!」という熱烈な勧誘に負けて、
昔書いた小説をもう1度書きたい、と奮闘するお話しです。
主人公は自分の複雑な出生を知ってしまい、家族と距離ができてしまう。
父親の影響で本を読み、小説を書いていたのに、それ以来まったく書けなくなってしまう。
小説を書く、ということは、そんな自分自身との戦いでもありました。
そこで文芸部に入り、「小説の書き方」を、文芸部のOBであり、現在シナリオライターとして活躍している「物語で仕事をしている」先輩に相談します。
そこで先輩は、「才能がなくても、シナリオ理論を学べば書ける」と教えられました。
しかし主人公は、その理論に則ってつくったプロットがどうしても面白いと思えません。
その直後全く真逆のOBに出会います。
彼は「シナリオ理論なんか要らない。感じろ!自分の才能を信じろ!」という、常識の通用しないタイプ。
部員から煙たがられる存在です。
この二人の話を聴きながら、そのうち主人公は「自分が小説を書かないと文芸部が廃部になる」という危機に陥り…という物語です。
この二人の対比が面白い。
そしてまさに、この「シナリオ理論」などの理論をプログラムに落とし込もうとしてるのが今回使用したソフトなんでしょう。
しかしこの作品は「才能を信じろ、風を感じろ」という正反対な考えも、否定していないように読めました。
笑わせに来る、コミカルなセリフ
今までの乙一さんの作品と違うな、と思ったのがここの部分。
キャラ設定も、わりとライトノベルっぽいというか、漫画やアニメのように「わかりやすい」キャラ設定です。
「ござるな」が口癖の歴史オタクとか。
そこが好き嫌いを分けるかもしれないなーと思いました。
個人的には、キャラ設定はちょっとやりすぎ。でもセリフは素直に笑えた。
特に主人公が最初に先輩に、いやいやながら中学時代に書いた小説を読ませ、
その感想を手紙でもらうところ。
ありとあらゆるネガティブな想像をして、「でも文芸部に誘うのが目的なんだから、そんなぼろくそに言われないかもしれない!」と勇気を持って読んだ感想が
「頭痛がする。吐き気がする。厨二病」
のような、辛らつな内容で、ここを読んだとき吹き出しました。
このような内容が随所にちりばめられてます。
そのコミカルさから、主人公の「暗さ」はそんなに気にならないです。
自分の出生を知ってしまった主人公が、家族と和解する主人公と父親の心情
やはりここはうまいな、と思わせられる内容でした。
誘ってくれた先輩への思いや、自分の居場所となった文芸部への想い、高校生のみずみずしさが作品には詰まってるのですが
父親の気持ちを知るシーンはこの物語の要なのではないでしょうか。
そしてこの出生と、主人公の恋愛が、後に少し絡まってきます。
自分で物語を作るということ
この作品を読んで思うことは一つ。
ああ、小説書いてみたい
くちびるに歌を
こちらは中田永一さんお一人の作品。
こちらも「ちょっと冴えない男の子」が合唱部に入って奮闘するはなしで、若干似てます。
読み比べると面白いかも。