小説

「奇跡の人」原田マハ 著 日本版ヘレンケラーの物語。(ネタバレあり)

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久々に小説を読みました。
「奇跡の人 The Miracle Worker」原田マハさん作。


奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)はこちらから

あらすじ:
明治時代。
盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女が名家の蔵に閉じ込められ、けものの子と呼ばれている。ただ「生きているだけ」の状態の少女「介良れん」。
弱視でありながらそれを隠しアメリカに渡り、「自由と女性の権利」を胸に彼女の教育係を受ける去場安。
れんの才能を信じ、れんの家族と戦いながらも才能を開花させるために奮闘する「日本版へレンケラー」の物語。

「ヘレン・ケラー」の物語は、多分児童書あたりでちょっと読んだくらい。
同じく盲目で耳が聞こえない女の子が、手文字で物事を理解し、喋るまでになった、「WATER」を理解した、というストーリーくらいしか知らない。
映画版の「奇跡の人」も見たことがない。だから新鮮に読むことができたけれど、どこまでが原作に忠実で、どこが創作かわからなかった。

ただ、場所が明治の津軽。間違いなく原作にはない、「三味線」や「ボサマ」、「イタコ」が物語に絡み合ってくるのがとても印象的。

原田マハさんらしい綺麗な文章、美しい情景描写や丁寧な心理描写や安の凛とした女性のえがかれ方はいつもどおり読みやすく、優しい気持ちになった。

※以下ネタバレあります。

意思疎通がとれず、閉じ込めておくしか出来ないれん。
おなかがすいたら与えられた食事を食べ、垂れ流し状態でただ生きている。扉が開けば駆け回り、見えないし聴こえないのでただ暴れて壊すだけ。
両親の手にあまり、兄の結婚にも支障をきたし、使用人はわからないことをいいことに、虐待を繰り返す。

読んでいて辛くなりました。

安が来て、れんに対して「敵じゃないよ」と伝え、安心する様子は切なくて、人間としての尊厳を考えさせられる。

母親の、申し訳ないという気持ちと娘を愛し、すこしおとなしくなった娘をただ自分の下に置き甘えさせたい気持ち。
父親の、とにかくおとなしく平穏に暮らせるだけになってほしいという気持ち。
安の、れんの才能を開花させて自立させたいという気持ち。

三者三様で最後までぶつかりあって、最後まで両親の思いは2人を振り回し、
最後の最後に安とれんの絆が奇跡を起こした。

「愛情」ってなんだろうな、と思わされました。
この「母親」の気持ちは現代にも通じていて、色々なハンデを持つ子どもを親自身が社会へ挑戦させない、閉じ込めてしまうこともある。
だけど、それは本当に「子どものため」なのかな?と。

疑問点も少々。

途中に出てくるれんの最初の友達、「ボサマ」のキワ。人の家の前で三味線を弾いて、歌って、お金をもらう。
この少女も盲目。この子がプロローグとエピローグに繋がるのだが…

単純に私が理解してないだけなのか、もうちょっと伝えたかったことがあったのでは?と思った。
プロローグに三味線とキワが出てきて、「あの奇跡の人が生きている」と伝えられる。

さて、どこにどう繋がるのか、と思ったられんと友達になる盲目の少女。
れんの成長のため、ひととき一緒に暮らすふたり。

なんだけど、ちょっと思ったよりこのエピソードがあっさりしすぎていて、
キワとあったことでなぜ「ローマ字」になったのか?がよくわからなかった。
キワは三味線という単語をれんに伝えるとき、「シャミセン」と手に書くのではなく、三味線を弾く動作で伝えた。
それを見てひらめく安。

なぜか「カタカナ」が「ローマ字」に変わっただけ…?このあたり、私の読解力不足でよくわかりませんでした…
おなじく「イタコ」のエピソードも…

そしてあっさり離れてしまう二人。
再開はエピローグに…

多分、プロローグ(昭和)の雪深い「津軽」の描写がものすごく丁寧で、その割りにこの描写がどこにもつながっておらずちょっと困惑(キワのその後の人生の厳しさを表してる?)

また、「水」を理解した最後のエピソードも唐突で、「なんで理解したのか?」理解できず。
このあたりは原作に忠実なのかな?原作を読めばわかるのかもしれない。ただ、「日本版のオリジナルリメイク(というのか?)」で「原作を読まなきゃ分からない」のはちょっと悲しい。

また、途中で出てくる「れんを狙った悪質な毒物事件」。
これに関しては「れんを邪魔に思う長男の仕業では?」とにおわせるだけにとどまり、結局のところ犯人は分からず、結果安に一番良くしてくれた「ハル」が職場を去るだけ。
ハルのその語についても触れられず、すっきりしない事件だった。

長男の結婚の話も、もうちょっと先が知りたかったし、
総じて「もうちょっと読ませて!!!」って思った作品でした。

プロローグとエピローグを挟んで本編、というこの形は他の作家ももちろん多様されるものですが、
原田マハさんの作品でも良く見る手法。
いつもはここまで違和感がないんだけれど、今回はちょっと弱かった。
プロローグとエピローグに持ってくるほどの絆が、本編で描ききれていなかったように思う。

突っ込みどころを冷静に考えると色々出てくるのだけど、
それでも「安とれんの大きな試練を大きな試練を乗り越えていく奇跡のストーリー」は読み応えあるし、
明治の、ちょっと重く暗い世界観も堪能できた。
アメリカの友人との手紙もあまり活かしきれてない?ような気がしたけれど、
アメリカとの対比もその世界観を引き立てる一つの役割だったように思う。

現代の女性の地位は、過去の女性が戦った結果でもあるのだろうな、と、こういう時代の女性が躍動する小説を読むといつも思う。

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